スマートデバイスは世界を変える


流通ネットワーキング2014年11・12月号に寄稿した「スマートデバイスは世界を変える」です。
あれから6年と8ヶ月、ITの世界はどのように変わったのでしょうか?

1.はじめに
 地球上に最初の霊長類が現れた頃、人類の祖先は四つ足で行動していた。
頭の位置は腕の長さ程の高さで、目線は地面に限りなく近く、
周囲の状況を把握することがとても難しかった。
近づいてくる猛獣を少しでも早く見つけることができなければ、
命を落としてしまう。
忍び寄る危険の中、人類の祖先は二本足で立つことを覚えた。
立って行動すると、今度は両手が自由に使えることに気づき、
道具を使えるまでに進化した。
そして人類は手に入れた道具に次々と改良を重ねていった。


 1698年 トーマス・セイヴァリーは蒸気ポンプの特許を取得した。
 1709年 エイブラハム・ダービーは石炭を加工したコークスで銑鉄を作った。
     銑鉄を作るための燃料が木炭から石炭に変わった。
     石炭の需要が増えると今度は深く掘るための力が必要になり、
     蒸気機関が使われるようになった。
 1712年 トーマス・ニューコメンはセイヴァリーのポンプの欠陥を直し、
     最初の気圧式蒸気ポンプを設置した。
 1769年 ジェームズ・ワットはニューコメンのポンプに改良を重ね、
     欠点であった燃料消費を大幅に抑えた。


この一連のイノベーションはイギリスの綿工業を大いに発展させた。
機械制工業が発達すると今度は原材料、製品、半製品、燃料などを
大量に早く輸送するために交通革命も起きた。
こうしてイノベーションの連鎖は、我々人類に限りない繁栄をもたらした。
コンピュータのイノベーションはどうだろう。
トーマス・フリードマンは『フラット化する世界』で次の様に言っている。
「フラット化の第一フェーズでは、私は自分のコンピュータと交流し、
社内の限られた範囲のネットワークで交流していた。
そこへインターネット-電子メール-ブラウザによる第二フェーズが訪れ、
世界はもうちょっとフラット化した。
~(中略)地球上の別の場所のより多くの人間と連絡し合い、
交流する人間の数が格段に増えた。だが、楽しみはこれからだ」
第三フェーズでは、クラウドコンピューティングをベースとして、
スティーブ・ジョブズがiPhoneを世に出した。
追随したのはGoogleのAndroid(アンドロイド)である。
両者が熾烈な競争を繰り広げる中、スマートデバイスの高性能化と低価格化は進んだ。
価格の障壁がなくなったおかげで、スマートデバイスはあっという間に市場を席巻した。
まだ有効な第三極は現れていないが、ライバルが増えれば更なる進化を遂げる、
楽しみはこれからである。

2.スマートデバイス活用のために必要なこと
 スマートデバイスは近年目覚ましい普及率を誇っている。
内閣府の「平成26年3月実施調査結果:消費動向調査」によると、
パソコンの世帯普及率は78.7%、スマートフォンの世帯普及率は54.7%、
タブレット型端末の世帯普及率は20.9%とのことである。
また100世帯当たりのパソコン保有台数は131.2台、
スマートフォン保有台数は101.5台、
タブレット保有台数は26.2台となっている。
なおIDC Japanによると、2014年第1四半期の国内タブレット端末出荷台数は
前年同期比12.3%増の212万台、
個人向けタブレット出荷台数は前年同期比9.1%減の142万台となったが、
Windowsタブレット好調により、法人向けタブレットは、
前年同期比115.9%増の70万台になったらしい。
タブレット市場も順調に伸びているようである。
 企業が更なる発展を遂げるために、スマートデバイスが果たす役割とはいったい何なのだろう?
この問いに明快な答えを出すのは容易なことではない。
しかし、個々の領域にフォーカスすることで、いくつかの答えを出すことは可能である。
「このタブレットを何かに使えないか?」、
「自分の仕事上でスマートフォンを使うとしたら何に使える?」、
「今取りかかっているこの作業にタブレットは使えないか?」、
まずはこのように考えることが必要である。
思考の妨げとなる様々な制約条件を取り払った上で考えに考え抜く。
そしてインターネットと有機的に結合しあうことで新しい何かを次々と生みだすのである。
 ITの進化に伴いユーザーニーズもその進化のスピードを加速度的に早めている。
ユーザーは利便性や生産性の向上を求めており、
現場での意思決定力向上が何よりも必要だと考え始めている。
どこへでも簡単に持ち運べるスマートデバイスが
強力なツールとなることは言うまでもないだろう。
スマートデバイスが世界を変える。皆さんも是非想像してみてほしい。
自分がスマートデバイスを手にした姿を。
自分なら何に使うだろう?
どう使うだろう?と。
その思考が世界を変えていく第一歩となるのである。
これから、当社の製品と当社が今後開発しようと考えている製品、
世の中に既にある製品の事例をいくつか紹介していこう。
「スマートデバイスの可能性」を少しでも感じ取ってもらえたら幸いである。

3.スマートPOS『ぴっぴ』
 小売店ではお馴染みのレジをスマートデバイスに変えてみた。
機動力抜群のデバイスにレジの機能を移植したのである。
「レジは設置型で固定されているもの」という概念を変え、
持ち運びや移動が簡単なデバイスをその中心に据えた。
そしてスマートPOS『ぴっぴ』が生まれたのである。
ハード導入におけるコストメリットを享受できるのは勿論のことだが、
その議論は別の場所にまかせるとして、ここでは機能的な効果を説明していこう。
 第一の効果は「省スペースと機動性」にある。10インチサイズのタブレットで
およそ高さ250mm×幅170mm×厚さ8mm、単行本を開いたときのサイズより少し小さいくらいか。
7インチサイズのタブレットはひとまわり小さく高さ200mm×幅120mm×厚さ8mmほどしかない。
スマートフォンを『ぴっぴ』端末として利用したならば、片手に収まるサイズである。
レジスペースのほとんどを占めていた従来型レジを、
『ぴっぴ』に替えることで作業スペースが格段に広がる。
もちろん、キャッシュドロワーやレシートプリンターを設置した場合、
その省スペース性は失われる。
しかし従来型と最も違う点は、それらを分離できるという点である。
それぞれが分離しているおかげで、レジ本体(スマートデバイス)以外を顧客の目につかない場所、
例えばカウンターの下などに設置することで、レジスペースがすっきりとする。
そしてそれは包装作業をはじめとしたレジ回りの作業コスト削減へとつながっていく。
顧客サービスを充実させることに力を入れられるのだ。
結果として顧客満足につながっていく。
また『ぴっぴ』はオーダー端末としても使えるため、飲食店などで従業員がスマートデバイスを手にして、
顧客のテーブルまで出向き注文を取ることができ、とても機動性に優れている。
もちろんテーブル据置きで、顧客自らが注文することだって可能である。
 第二の効果として「直感的な操作性」があげられる。
タッチパネルによりダイレクト・マニピュレーション(直接操作感)がもたらされた。
スマートフォンを使ったことがある人であれば分かると思うが、
マニュアルなしでも簡単に使いこなすことができる。
従来のパソコン・携帯電話などでは「戻るボタン」や「進むボタン」、「メニュー」が必要だった。
だがスマートフォンやタブレットであれば、画面上のコンテンツに直接触れることで、直感的な操作が可能だ。
最初は「戻るボタン」や「進むボタン」がないため、これまでのパソコン経験が邪魔をして、
どのように操作すればよいのか分からないという事例も出てくるが、これは使用しているうちにだんだん慣れてくる。
以下に代表的な操作方法を列挙する。
 ① タップ:画面を指先で1回タッチする
 ② ダブルタップ:画面を指先で2回素早くタッチする
 ③ 長押し:画面を指先で長く押す
 ④ フリック:画面を指先で軽くタッチし、その指先を上下左右どちらかの方向へ素早く移動させる
 ⑤ スワイプ:画面を指先で軽くタッチしたまま、その指先を上下左右どちらかの方向へ移動させる
 ⑥ ピンチイン:画面を指先2本で軽くタッチしたまま、その指の間隔を狭める
 ⑦ ピンチアウト:画面を指先2本で軽くタッチしたまま、その指の間隔を広げる
 第三の効果として「クラウド連携」があげられる。
スマートデバイスとクラウドが連携して得られる最大の効果は、
違う場所にいてもあたかもその場にいるように情報を共有できる点にある。
例えば経営者やマネージャーが出張などで遠方に出かけていたとしよう。
その時でもクラウドに情報を連携さえしておけば、仕事の状況がリアルタイムに把握できるのである。
これは大きな利点であろう。
出先から直接指示することも可能になる(『ぴっぴ』では今後の課題としている機能である)。
メガネ型のウェアラブルコンピュータを使い、
現場にいる者とマネージャーが「つながる」ことで視野の共有が出来るようになれば、
より効果的な指示が出来るようになる。
また、骨伝導型イヤフォンを使えばその音(指示)は外に漏れることなく、騒々しい中でも確実に内容が伝えられる。
作業効率は格段に向上する。


4.機動性をうまく活用した適用事例
 次は、札幌市のあるクリーニング店に導入したシステムを紹介しよう。
このクリーニング店は次のような課題を抱えていた。
①システム導入以前は、顧客宅や店に訪問しクリーニング品を受け取り、紙の伝票に書きとめていた。
そして店舗へ持ち帰った手書きの伝票を、別のスタッフが本部の販売管理システムに登録するという方法をとっていた。
手書きによる書き間違いや転記ミス、伝票の紛失など、間違いも当然発生する。
デジタル化が急速に進む今、即時性や正確性などの点で時代にそぐわないと感じていた。
②しかしその場でデータを入力できるような専用端末は1台当たり数十万円もするので
営業担当者全員に配布するとなると相当コストがかさむ。
そのためなかなか導入に踏み切れなかった。
相談を受けた当社では持ち運びが容易な7インチのタブレットを営業担当者に携帯させることを提案し、
ハード導入費用だけでも10分の1以下に抑えることに成功した。
また、集配先の情報をGoogleが提供する地図を活用してアプリ上に表示するなど、集配支援機能も積極的に取り入れた。
実際の運用では、クリーニング品を受け取ったその場で受取証を発行することにより、売上登録の間違いも格段に減った。
社長からは「今回は、満足のいくシステムが見合ったコストでできた。
今まで何人もの手を煩わせていたことが、一人の作業で簡単にできる。
顧客にとっても手書きの伝票よりプリントされた伝票の方が安心して信頼して利用できる」という言葉をいただいている。
これは集配という「車で移動しながらの作業」であるため、
「持ち運び可能」というスマートデバイスの機動性がいかんなく発揮された事例である。


5.その他の具体的な事例
(1)ウェアラブル端末を使った野菜の収穫
今まさに取り組んでいる課題がある。ウェアラブルコンピュータを使ったものである。
当社の「農業とIT」という大きな取組の中のひとつで、
発達障害を持った方を何人も雇用しているトマト生産法人の課題を解決しようと考え出された。
そこでは時期によって出荷するトマトの色(熟成の状態)を変える。
夏場の暑い時は輸送途中で熟成が普段よりも早く進むため、少し未熟の状態で出荷する。
収穫すべきトマトの色を色見本で従事者に伝えるのだが、そこは自然の野菜、ぴったり同じ色とは限らない。
ある程度色の幅を意識して収穫しなければならない。
しかし、その微妙な判断が発達障害を持つ従事者にとってはとてもむずかしい。
そこでウェアラブルコンピュータを使うことにした。
メガネ型のウェアラブルコンピュータのディスプレイでトマトを覗くと、トマト上に「OKサイン」が浮き出る。
収穫OKということである。
これで安心して収穫作業を進めることができる。
今までは聞かれるたびに、健常者が「収穫して良いトマト」であるかどうかを教えていた。
しかし今後はウェアラブルコンピュータが健常者の代わりに教えてくれるのである。
メガネ型だと両手が自由に使えるので作業がスムーズに行え、とても具合が良い。
尻腐れ病や葉カビ病などトマトがかかる病害虫なども判定できれば更にスムーズな作業が実現できる。
ただ、いつもすべてがうまく行くとは限らない。
ウェアラブルコンピュータにはどうしても判定できない問題が発生したとしよう。
その時にはウェアラブルコンピュータを使って、従事者が今まさに見えている視界を管理者と共有する。
管理者は世界中どこにいても、インターネットを通して圃場(畑)の状態を、自分の目で直に視ることができる。
そして従事者に具体的で有効な指示を直接出す。
遠隔地の画像、映像、音声が、空間と言う概念を取り払って即座につながるのである。
コンピュータに接続しているそれ以外のあらゆる機器も操作できるようになると、ますます利便性が向上する。
まさにIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の世界である。
遠隔地にある離れた「モノ」と接続する。
インターネットはあらゆる「モノ」がつながるためのインフラとなっていくのである。
(2)AR(拡張現実)を使った商品パンフレット
世の中にはいろいろな商品カタログがある。
冊子で出来たアナログの商品カタログは「パッと見た感じ」や、性能を数値で伝えるのに適している。
しかし、アナログの商品カタログだけでは、実際の使用感を伝えることはむずかしい。
ここにAR技術を組み合わせる。
気になった商品にスマートフォンをかざすと、実際にその商品を使っている映像が、様々な角度から映し出される。
ここまで来ると実際の使用感により近い感覚が仮想体験できることだろう。
また、カメラで部屋を映しながら実物大の大きさの家具を画面上に重ね合わせることが出来ると、
実際に家具を部屋に配置した時の様子が分かり、部屋にマッチするかどうかが一目でわかる。
店舗に行かなくても自分に合った商品が選べる。
こちらも既にいろいろなところで実現されている技術である。
(3)地図を使った配送管理
当社の社員から出てきたアイディアを具体化して生まれた『みちコレ』というアプリがある。
『みちコレ』は、位置情報(GPS)機能を利用し、地図上にルートを作成するアプリである。
ルート上には写真、動画、文章などの情報を付加することが可能で、
作成したルートをトレースし、距離、時間などの情報を取得することができる。
AED(自動体外式除細動器)マップを作成したり、
毎日のランニングコースを作成し、ポイント地点ごとのタイムを記録、比較したり、
自分だけのドライブコースを作成したりと使い方は様々である。
作成したマップはグループで共有できるのもこのアプリの特徴である。
このアプリを使えば配送管理もお手のものとなる。
商品配送を行う会社は、配送伝票から『みちコレ』用のマップ(地図)を作成し、お届け先を登録する。
ドライバーは登録されたマップをダウンロードして配送を開始する。
あとはルート通りに配送すれば良い。
留守などで配送できなかったところは未配達のマークをつけることで管理可能となる。
マップ共有機能を使えば、配送状況も本部で一元管理可能で、効率的な配車が可能となる。


6.おわりに
いろいろな事例を交えてスマートデバイスとクラウドの可能性を探ってきた。
世界中を探せば、紙面には書ききれないほどのアイディアが溢れていることだろう。
当社では社員から常時アイディアを募っているが、今でもどんどん増え続けている。
どれもこれも実現すれば有用なものばかりである。
冒頭にも書いたが、もう一度言おう。
皆さんも是非想像してほしい。
自分がスマートデバイスを手にした姿を。
自分なら何に使うだろう?
どう使うだろう?と。
ビジネスのイノベーションを成功させるためには、現場で何を考えるのかがポイントになる。
様々な切り口でスマートデバイスを自分の仕事の枠組みの中に投入してみてはどうだろうか?
クラウド時代の到来により世界中が一瞬でつながるようになった。
光海底ケーブルの建設も世界規模で着々と行われており、通信量や速度も加速度的に改善している。
『ぴっぴ』のようにアプリが多国語対応していれば、公用語に依存せず使用するアプリの選択の幅も広がる。
世界がより一層身近になっていくことだろう。
今後、画像認識技術や音声認識技術、またワイヤレス充電技術などが格段に向上することにより、
今よりも世界がますます近くなっていく。
そして様々な場所で多種多様なイノベーションが無限に生まれていくことだろう。
我々はその進化を進んで受け入れ、そこから起こり得るあらゆる変化を積極的に活用していかなければならない。
スマートデバイスとクラウドによるイノベーションのステージは、
現時点では「四つ足で行動していた人類の祖先が二本足で立つことを覚えた」段階かもしれない。
しかし今後は蒸気機関を手にして飛躍的な成長を遂げた段階に突入する。
スマートデバイスが世界を変える。
これは言い過ぎなどではない。
確実に世界を変える。
あとは私達の使い方次第という訳である。

 

 

  お問い合わせ  - お気軽にお問い合わせください - 

  • 株式会社 パブリックリレーションズ
  • 〒064-0807
  • 北海道札幌市中央区南7条西1丁目13番地 弘安ビル5階
メールでのお問い合わせはこちら

  • この記事をシェアする